動物病院の経営で売上を重要視する理由
普通の病院であれば、利益を拡大させることは本質的な目的ではなく、医療計画などにより病床数に関する制限があるため、営利企業のように規模・利益の拡大を追求できません。各病院がむやみに医療費をつりあげ、利益の拡大を目指した場合、日本という国全体の視点から考えると、国民医療費用の増加を通して国の財政状態を悪化させてしまう可能性があります。
しかし、動物病院の場合、治療には保険が適用させるわけではないので、国の財政状態を悪化させることにはなりません。ならば動物病院での医療費を上げて、利益の拡大を追求すればよいという簡単な問題ではないのは言わずもがなです。
動物病院の市場はペット数の減少(特に犬の犬頭数)に伴って年々減少傾向であり、一方で、獣医師・動物病院の数は年々上昇傾向です。そんな中で動物病院の二極化が進んでいます。市場規模は減少していても、売上を維持したり、伸ばしたりしている動物病院もあります。そうなれば、売上を大きく下げている動物病院があるということです。
また、2012年の大阪フレンドロータリークラブの講演会によると、1病院あたりの平均売上は3000万円です。それぞれの病院で幅はありますが、このうちの約1/4が院長の収入としての取り分となります。動物病院の経営において売上の約1/2は医療環境・施設の維持や原価、光熱費などのコストとなります。残りの1/4は院長以外の動物看護師などの人件費となります。半分のコストはたいてい固定費ですから、売上から固定費のコストを引いた分が院長、動物看護師の人件費となるわけです。
売上の良し悪しが人件費として支払える額に直接影響を及ぼします。売上が思うようにいかなくても、動物看護師などのスタッフの給与を簡単に下げるわけにはいけないため、院長の給与を減らすことになる場合がほとんどでしょう。
先程も述べたように、人を相手とする普通の病院とは違い、動物病院では規模・利益の拡大を追求できます。他の動物病院と同じようなサービスで医療費用だけあげても「ここの動物病院は高い」というレッテルをはられてしまうだけです。他の動物病院にはない独自のサービスを追求し、差別化を図って売上アップを目指すことが必要になるでしょう。
売り上げを伸ばすもしくは維持するために必要な取り組み内容
まず動物病院の売り上げはどのように計算されるか考えてみましょう。
動物病院の「売上=来院単価×来院数」で表せるでしょう。さらに、来院数「はリピート率×(既存客数+新規顧客数-流出顧客数)」となります。よって
動物病院の売り上げ=来院単価×リピート率×(既存客数+新規顧客数-流出顧客数)
となります。
売上を維持または伸ばすためには、これらの要素ひとつひとつにアプローチしなければなりません。
まず、来院単価を上げることを考えましょう。
どうすれば来院単価をあげられるでしょうか。それは他の病院にはない独自の医療サービスを展開し、差別化を図ることです。どんな医療サービスを提供するかはさまざまです。他病院が診療していない時間に診療を可能にするなど診療時間に工夫したり、歯科専門処置・皮膚専門処置などを行ったり自院独自のアイディアを練りましょう。
次にリピート率。
既存客数を上げ、流出顧客を減らすために、お客様が満足する医療サービスを提供する必要があります。高度な医療処置はもちろん、医療費は適切であるか、スタッフの応対に不足はないかなど考えられる要素は数多く存在します。
顧客が流出したり、新規の顧客が定着してくれないなかったりする病院はお客様の目線と経営者の目線の間でギャップがあり、お客様が十分に満足できていないことが多くの原因です。具体的な原因は各病院でさまざまです。
まずはその原因を突き詰めることから始めましょう。仮にスタッフの応対に問題が原因の1つであるとすれば、研修制度の見直しや、スタッフ間のコミュニケーションに問題はないか見直すなどのアクションに移しましょう。
次に、新規顧客の獲得を増やすことについて考えましょう。
次に、新規顧客の獲得を増やすことについて考えましょう。
新規顧客の獲得は開業前から行動できます。病院建設中に看板などで新しく動物病院ができることを知らせたり、その看板にパンフレットを据え置いていたり、チラシのポスティングを行ったりできます。自院のホームページを開設することは必須でしょう。また、時代に合わせて、SNSのアカウントを作成し、診療情報・飼い主さんがペットに対する知識の普及などをSNSで配信するのも一つの方法ではないでしょう。
開業後には自院の情報を随時公開することで、お客様からの信頼度獲得にもつながります。新規顧客の獲得は経営のファーストステップです。お客様に自院を知ってもらい、来院してもらえるかは宣伝広告の戦略に掛かっています。予算との兼ね合いをもって最大限の力を発揮できる戦略を立案しましょう。ご自身でうまく行えるか自信のない方は広告宣伝の専門家に相談するか任せましょう。素人と専門家では期待できる効果が圧倒的に変わってきます。
売上が伸びている動物病院に共通すること
さきほど紹介したように、売上を伸ばすためには売上を維持または伸ばすためには来院単価、リピート率、既存客数、新規顧客数を伸ばし、流出顧客数を減らさなければなりません。それぞれの要素に対するアップローチはさまざまですが、売上が伸びている動物病院が共通して行っていることが3つあります。
1、スタッフが生き生きとしていることです。
ドアを開けて病院内に入ると、受付担当の方が笑顔で元気よく挨拶をしてくれ、診療の際には動物看護師や院長先生が分かりやすく丁寧に説明してくれます。病院内に明るい雰囲気が漂っており、来院して、気持ちよく医療サービスを受けることができます。
2、スタッフひとりひとりからお客様への思いやりを感じることです。
常にお客様を気遣い、お客様の動物たちを思いやれるか。売上が伸びている動物病院の中で動物病院として当たり前のことを怠っている病院はありません。当たり前のことを他病院よりもどれだけ、真剣に徹底的に行えるかが大切です。スタッフひとりひとりの心持ちが普段の業務態度に現れます。
そういったことにお客様はすぐに気が付きます。常に最高の対応を心掛け、業務態度に怠りはないか気を付けましょう。必要であれば、業務マニュアルを作成したり、研修を行ったりするなどすぐに取り組むべきです。
3つ目は広告宣伝がきちんと行われていることです。
地域の方々に動物病院の存在は周知されていますか。地域のシェアを上げ、売上を伸ばすためにも常に新規顧客を獲得し続ける必要があります。宣伝広告の方法はさまざまです。自院にあったやり方で効果的な集客を行いましょう。
売上が下がっている動物病院に共通すること
売り上げが伸びている動物病院に共通することを紹介しましたが、逆に売上が下がっている動物病院に共通することについて考えましょう。ずばり、それは地域からの必要性が低いと言えるでしょう。すごく厳しいことを言っていますが、どのようなビジネスにおいても、サービスを提供する経営者側と顧客のニーズがずれていれば顧客はそのサービスを必要としません。
動物病院の経営においては、地域のお客様が求めている医療サービスをお客様が納得できる価格で提供できているかが問題となります。お客様の求めている医療の質や幅、診療時間、トリミングやホテルなどの医療以外のサービスなど、お客様のニーズと一致しているかを常に気にする必要があります。
また、動物病院の集患がきちんと行われていないケースも多いです。立地に問題があり、地域の住民にあまり知れていなかったり、広告宣伝にお金をかけていなかったりというケースが多く見受けられます。立地の選定は院長が気に入った場所であること第一ですが、地域のお客様が認知しやすく、アクセスしやすいといったお客様に寄り添って厳選する必要があります。
そして売上が下がっている動物病院はその評判も低いです。新規のお客様が動物病院を探す際に重要視するのが病院の評判です。安心して信頼のおける病院で診療を受けたいのは飼い主の当然の心理です。これはお客様がその動物病院の評価がそのまま表れるので、病院の立地の問題や医療サービスに関することなどお客様の意見を真摯に受け止め、改善を要する場合は参考にしましょう。
動物病院の経営において注意すべき点
動物病院の経営は飼い主の皆様あって、はじめて成り立っています。動物病院を経営する上で、常に注意すべきことは動物病院の経営者側の視点と地域のお客様の視点にできるだけギャップが生じないようにすることです。
経営者が目指すものとお客様が望んでいるものが違えば、せっかくの努力が見当違いになってしまいます。地域に必要とされる動物病院になることが売上アップにつながり、経営を好調に進めるための原点です。
このことを従業員全員が理解し、同じゴールに向かって進んでいくことが大切です。従業員の働きやすい環境を整え、従業員をマネジメントしたり、経営指標を用いた現在の経営状況を把握したり、やるべき具体的なアクションはたくさんあります。常によりよい動物病院にするために経営戦略・計画を練り続けましょう。
動物病院の経営においてもっとも大切なことは地域の人々に必要とされる動物病院を目指すことです。売上を伸ばすことだけが動物病院経営のゴールではありませんし、成功ではないと思います。地域貢献であったり、動物愛護に力を入れたりと動物病院それぞれで目指すゴールは違います。
それぞれの院長の目指す動物病院を実現することがその病院の成功であり、ゴールであると思います。それらを実現している病院は自ずと地域に必要とされている病院であると私は思います。